HOME   予防法務   「テクノ企業法務日誌」 
話合いによる問題解決   衝撃の同席調停   大阪研究会   同席合意形成と法律業務   ニューヨークのMediation
 
LANCIA     FORREST    おまけ

テクノ企業法務日誌47                                                          弁護士大澤恒夫

オープンソースとどう付き合うか?

◆景気回復と「阪神優勝」[注:本稿は2003年秋近くの時点での記述になっております。]

 秋も近くなって日経平均株価が1万円を超え、更にその上をうかがっているということで、日本の景気も回復の兆しが現れたのでしょうか。アメリカでも楽観的な見方が強まってきたという報道もありました。今度こそ本当の回復に繋がって行ってほしいものです。本当に回復といえば、今年の阪神タイガースはまさに復活ですね。優勝はまず間違いなしでしょうが、先日新聞で、千葉の男性が「阪神優勝」という登録商標を持っていて、タイガース球団がそれを譲ってもらいたいと交渉したけれども、難航しているような報道がありましたね。優勝間違いなしで商標のバリューもぐっと上がったのでしょう。当社も本格的な景気回復に後押しされて、ネームバリューの高まる事業展開を図りたいものです。

LINUXの導入を検討

 話は変わりますが、私どもは家電製品を含め幅広いアプリケーションで用いられる電子デバイスの開発・製造を行っております。最近、家電業界でPDAやハードディスク・レコーダーなど、LINUXを組み込んだ製品が続々と現れており、携帯電話などにも採用されてゆくようです。当社もこれからLINUX対応をしてゆかなくてはなりません。LINUXは無償のソフトだということで、社内業務の情報システムとしても今後、積極的に導入を検討することになりました。ただ、LINUXは無償だしソースコードまで入手できるというのは良いことのように思いますが、ライセンス条件だとかがややこしいとか、米国の会社が権利侵害で訴えを起こしているというような話も聞きます。当社の顧問弁護士のLさんはコンピュータをはじめIT関連の仕事が一つの中心になっていると言っていましたので、まずは入り口のところから話を聞いてみることにしました。

◆オープンソースとは

 LINUXはオープンソースだといわれますが、オープンソースというのは一言でいうと、ソフトウェア、しかもそのソースコードの入手、利用、手直し・修正、再頒布の自由を保障すべきだという考え方のもとで開発されライセンスされているソフトウェアのことで、LINUXはその代表的なOSソフトで、フィンランドの学生だったリーナス・トーパルズという人が中心となって開発したものだそうです。

Lさん、そうするとオープンソースは誰でも自由に何でもできるということで、全然ややこしくないのではないですか。」

◆ライセンス条件の代表例としてのGPL

「そうですね。ある意味ではそのとおりです。ただ、ライセンス条件などをもっと詳しく検討しておく必要があります。」

 L弁護士によると、概略次のようなことだということです。

オープンソースについては法律で決まりがあるものではなく、もともとの開発者が採用するライセンスの条件によって取り扱いの内容が異なるものであり、一口にオープンソースといっても種々のものがあります。その意味では、これからオープンソースの考え方で新しいソフトを開発提供してゆこうとする場合には、従来からのライセンス条件にとらわれない新たな内容を創造することもできます。

 オープンソースのライセンス条件の典型的なものは、リチャードMストールマンという人が設立したFree Software FoundationFSF)の定めているGNU General Public LicenseGPL)というものです(http://gnu.nucba.ac.jp/)。LINUXもこのGPLが適用されるものとして開発され流通しています。GPLの日本語訳については、http://www.opensource.jp/ gpl/gpl.ja.htmlを見てみて下さい。

GPLの主要点

GPLは、ソフト開発者=ライセンサーが著作権を保持することを前提に(従って、いわゆるパブリック・ドメインとは異なります。)、ライセンシーが再頒布する場合に自分が行った手直しや修正した部分のソースコードも開示することや、その部分を含めて無償で再頒布しなければならないこと等を条件として、対象となっているソフトウェアのソースコードを含めてその入手、複製、利用、改変、再頒布を許諾するというものです。これらの条件に反すると自動的にライセンスは解除され、以後の複製等の行為は著作権侵害になるということです。

◆伝搬性と独立性

「そうすると、そのソフトを応用して活用の幅を広げたり使い勝手を良くした場合、その改良ソフトのソースコードも無料で開示しなければならないのですか。」

「まさにそこがGPLの難しい問題なんですね。GPLでは当該ソフトウェアの「derivative work」(派生物と言われたりしますが、日本の著作権法でいう二次的著作物と翻訳できます)についてもGPLが適用されるとしていて、これをGPLの伝搬性といったりしてます。逆にその部分が当該ソフトウェアから派生するものではなくて、独立した別個のものと合理的に判断され、別個のものとして頒布される場合には、GPLの対象にはならない、つまりソースコードの開示や無償性は必要ない、としています。」

「ややこしいですね。」

「企業がLINUXに関連して新たな開発行為をしたとして、どこまで公開しなければならないのか、商用として有料で販売してよいものとそうでないものとの区別はどうか、といった点が非常に問題となります。たとえば、リンクを形成したり、プラグインを導入したり、ファイルの組み込みをしたりした場合、派生物なのか別個独立なのか、相当に難しい分析と判断が必要となります。」

◆無償性

「企業がコストをかけても、無料でオープンにしなければならないんじゃあね・・・」

GPLで『無償』といってますのは、GPL適用対象のソフトウェア自体の配布の基本原則ですが、配布するためにCD-ROMにコピーするなどの形で費用を要する場合、その費用を徴収するのは構わないとされています。そらから、有料で保証サービスを提供することもOKとされています。」

◆有料の業務との区別

「有料でやってよい部分もあるんですね。」

「そうですね。それからGPLの無償性と区別しておかなければならないのは、GPLソフトに関連して種々の開発行為や保守作業、運用業務などが必要となる場合、それらの作業や業務などを第三者に行ってもらおうとすれば、当然有料となります。これはGPLとは関係のない話です。」

「それはそうですよね。それまで無料ではLINUXビジネスなんか成り立たないですもんね。」

「ちなみに、LINUX関係の開発委託などが行われる場合に、無料のLINUXが材料なんだということから、受託者に何でもかんでも問題を押し付けるというような委託者もいるようで、開発契約の時に責任範囲を明確に取り決めておくことが、双方のために必要だと思います。」

◆無保証と自己責任とコスト

「もう1点、GPLで注意しておかなくてはならないのは、GPLソフトについてはなんらの保証も提供されず、導入もメンテナンスも運用も自己責任で行わなくてはなりません。システムダウンなどの問題が生じても、ライセンサーは責任を負わない条件になっています。LINUXは無料だといわれますが、各企業の需要に応じた導入、関連システムの構築、運用メンテナンスなどは自分で行うか、外注して第三者にやってもらうことが必要で、この点で相当のコストを要するので、トータルのコストとして一概にLINUXは安いとは言えないようです。」

LINUXビジネス

「逆にいうと、LINUXを実際に使えるようにするための業務がビジネスになるんですね。」

「そうですね。ついでに言いますと、LINUX関連のビジネスとしては、LINUXや関連ソフトをパッケージにして販売し、そのサポート業務を行うディストリビューションビジネス、大型コンピュータを始め基幹的な製品にLINUXを取り込むフラッグシップビジネス、システム構築の受託業務に中でLINUXを取り込むシステムインテグレイションビジネス、LINUX向けアプリケーションソフトを開発提供するアプリケーションビジネス、それから貴社のようにこれから家電製品用の電子デバイスにLINUXを採用する組み込みビジネスなど、多様なものがあります。」

◆自社システムの開発とGPL

「当社ではとりあえず自社システムの一部をLINUX化しようということで、当面、LINUXを手がけている開発業者に外注しようと思うのですが、その場合でも開発した内容を公開しなくてはならないんですか。」

「まえに言いました派生物がなければ公開の問題は生じません。また派生物と考えられる場合でも、開発業者との契約で開発内容については秘密にして外部には一切開示しないという条件にしておけば、外部への開示はなされませんし、それがGPL違反になることもありません。開示しなくてはならないのは、この場合、開発業者から当社に対してであり、当社は当然、ソースコードも貰うようにすべきですが、当社がそのソフトウェアを当社の社内業務に使う範囲であれば、対外的に公開する義務は負いません。」

◆組み込み型ビジネスと製品に関する責任

「そらから、先ほどいいましたように当社では家電製品で使われる電子デバイスにLINUXを採用することを考えているのですが、先ほどのお話ですと、GPLでは保証は一切ないし、責任も一切負わないという契約条件になっているということでしたね。」

「そうですね。」

「そうすると、電子デバイスにLINUXを採用した場合、そのソフトにバグがあったとき、当社も一切責任を負わないという主張ができますか。」

「これはいろいろ難しい問題を含んでいますね。まず、GPLで責任を負わないと言っていますので、ソフトのライセンサーの責任についてであって、そのソフトを組み込んだ製品の製造者が責任を負わないということではありません。製品の製造者は、その製品に関連する契約や法令に従って、責任を負うことになります。たとえば、製品の品質保証については、LINUXを採用しているから責任を負わないというのではなく、その製品に使われる保証書や契約書に従って責任を負うことになるでしょう。」

LINUXPL責任

PL責任についてはどうでしょうか。」

「ご存知のように、製造物責任法では『製造物』とは、製造又は加工された動産をいうと定めていて、ソフトウェアはこれに該当しません。しかし、ソフトウェアを組み込んだハードウェア製品は、『製造物』ですから、ソフトウェアの欠陥によって組み込み製品が事故を起こし、拡大損害をもたらしますと、組み込み製品自体の欠陥ということになって、製造物責任の原因となりうると考えられます。」

「この場合も、GPLで私どもの責任がなくなるというのではないわけですね。」

「そのとおりですね。」

LINUXに関する米国SCOの訴訟

「ところで、新聞でチラッと見たのですが、アメリカではSCOという会社がIBMを相手取って、LINUX関係の訴訟をやっているようですね。」

「そうですね。SCOが権利を有するUNIXオペレーティング・システムのコードの一部がIBM版のLINUXに無断コピーされているという主張をして、訴訟をしているようですね(SCOの発表:http://www.jp.sco.com/company/press_release/2003/20030310slai.htm。これに対する米国IBMの反論については、http://japan.cnet.com/news/ent/story/ 0,2000047623,20054090,00.htm)。その内容そのものは現段階では私ども外部のものにははっきりと分かりません。その中で、GPLの効力の問題まで波及して出てきているようです。」

「といいますと・・・」

GPLと契約論

「報道を見ると、IBMの反論の一部として、GPLに従ってきたから責任はないという部分があるようですが、その点に関してSCOGPLは効力がないと主張するもののようです。これはGPLが当事者同士が調印をする契約書のスタイルではなく、あらかじめWeb等で宣言のようにして表明されていて、複製等の行為をすると自動的にライセンシーに適用されるという形をとっているために、契約として成立していないとか効力がないという主張をするのかもしれないですね。」

GPLは根本から問われるということですか。」

「まあ、そうですが、同じ理屈で言うと、たとえば現在行われているダウンロード・ソフトウェアなども問題だということになりそうですが、それは多分認められないのではないかと思います。いずれにしても、この訴訟についてはしばらく推移を見守る必要があるでしょうね。」

◆その他の問題

 Lさんによると、きょう聞いた話のほかにも、GPLソフトと特許権の関係、そもそもどこの国の法律が適用されるのか、など難しい問題が山積しているとのことです。これらの問題を含め、最近(平成15年8月15日)経済産業省が「オープンソースソフトウエアの利用状況調査/導入検討ガイドライン」(http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0004397/)を公表したということで、ぜひこれを読んで検討してほしいということでした。

****************************************

 LINUXをはじめとするオープンソースの問題の一端がおぼろげながら分かってきたと思います。これからLINUXの社内への本格導入と組み込み製品への採用を検討する中で、法的な側面も十分に研究してゆきたいと思います。

(おわり)

予防法務へ

Homeへ

©2003 Tsuneo Ohsawa. All rights reserved.