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ニューヨークのMediation

1999年11月にADR調査のため訪問した
ニューヨーク市弁護士協会の入り口

ブルックリン調停センターを運営する慈善団体
Victim Serviceのプレート

American Arbitration Association(AAA)にて

 1999年11月にレビンさんのご案内で米国にゆき、ニューヨークのADR、とくにMediationの実情を中心に勉強をさせていただきました。日本から私を含め5人の法律家が参加しました。左下のスナップは、ニューヨークでMediationの実践をしておられる皆さんとの昼食会でのものです。真中はクイーンズ近隣調停センターの待合室で、小さな子供のある人でも安心して連れてくることができるように玩具などが用意されています。右下はブルックリン調停センターの調停室です。ここで同席Mediationが行なわれます。この施設は家庭裁判所の付属施設の中にあり、調停室の周辺を含め警察官が巡回で警備をしています。ちなみにトイレは警察官からカギを借りてゆかなければ入れません。

ニューヨークにおけるMediationを中心としたADRの制度及び運営

 今回の訪問先や勉強したことを、ごく大つまみでまとめると、以下のようになります。

(1) 訪問先は、ブルックリン家庭裁判所、リーラ・ラブ教授(カードーゾ大学ロースクール)、ブルックリン刑事裁判所紛争回付センター、ブルックリン近隣調停センター、クイーンズ近隣調停センター、私設調停事務所、NY州統一裁判機構ADRオフィス、NY市弁護士協会、米国仲裁協会(American Arbitration Association、“AAA”)、です。

(2) 今回の調査で私が興味を持った主要な事項は、以下のとおりでした。

 @ NYにおけるMediationは、裁判所付属のもの、慈善団体などが運営する近隣調停センターが行っているもの、私設の事務所が行っているもの、紛争解決会社が行っているもの、AAAが仲裁の前に行っているものが主要なものです。

 A Mediationの理念として、紛争は当事者自身が話合によって解決するのが一番であり、紛争当事者間の話合を促進する(Facilitate)のがMediationの役割であるという考えが強調されています。その考え方の下では基本的に当事者の法的主張の当否を評価したり前提事実の調査は行わず当事者のニーズを当事者自身に発見させ、またこれらに対応した解決(特に今後の当事者間の関係形成に重点が置かれる)を当事者自身に掴み取らせることが目指されます。これに対してArbitrationは過去の事実を探索し、主張の正否を問題にするEvaluativeなものです。人々は時間・費用・労力のかかるEvaluativeな訴訟や仲裁に失望しているといいます。

 B 近隣調停センターを運営する慈善団体は、当事者の対話の促進と揉め事の解決を通じCommunityの再建を行うことも考えているといいます。更に学校や家庭における対話の促進のため出張教育も行っているそうです。
 ←私としてはこの側面をもう少し掘り下げたいと思います。同席でルールを守りながら対話をして問題解決を行って行くこと(また種々の局面で第三者として対話を促進する技法を習得すること)は、家庭・学校・職場・地域など社会のあらゆる局面で必要不可欠であり、広範な裾野と深い質的な課題を含んでいると思います。

 C Mediationによる対話を通じて当事者自身が変貌を遂げることを期待するTransformativeなMediationを行っているMediatorもいますが、いまだ少数に留まっているそうです。←同席調停の技法はカウンセリングのそれに非常に似ており、大変興味深いものですが、法律業務という観点からどのように位置付けを行うかは難問のように思われます。

 D AAAでは同所で取り扱う事件の相当程度はMediationで解決しているといいます。ただ、Mediationの理念ないし方法として、前記のFacilitativeとEvaluativeという区分は余り意識されていないようであり、別席方式も相当に行なわれているようです。

 E NYでは法律家による法律業務(Practice of Law)の独占が認められていますが、MediationやArbitrationは法律業務には当たらないといいます。なぜなら、これらは法律を適用する仕事ではなく、話合や合意を援助する仕事だから、ということです。従って、NYではMediationやArbitrationを非法律家が行っても問題無いとされ、現に私設のMediation事務所や紛争解決会社が業務を行っています(ちなみに、マンハッタンの電話帳を見ると、Mediation業務を提供する私設事務所の広告もなされていますが、その数はわずかであり、弁護士事務所の広告ページ数とは比較になりません。)。

   

NYの電話帳に出ていた私設の離婚調停サ
ービスの広告例(
拡大はここ
「手助けさせて下さい。経験15年以上。無料
相談・パンフレットあり」 

 

NYの地下鉄電車内の離婚事件弁護の広告
(
拡大はここ)
「専門家です。無料相談はこちらの電話へ。
お手ごろな費用での弁護を」

 

同じく事故賠償事件の弁護士の広告
(
拡大はここ)
「事故で負傷?多額の補償を闘い取る法律
専門家です。無料電話、無料助言あり」

 なお、アメリカでは同席での話合いがほとんどかというと必ずしもそうではなく、私の知人でアメリカでPracticeをしている複数の人にお聞きしますと、少なくとも裁判所で行なわれる和解は日本と同じ別席交互方式がむしろPopularのようです。同席Mediationのことを聞いて驚かれるアメリカの人たちも多いようです。アメリカにおける全般の状況を調べてみたいと思っています。


 なお、米国のADRについては、E.シャーマン(大村雅彦編訳)『ADRと民事訴訟法』(中央大学出版部)、レビン小林久子『調停ガイドブック アメリカのADR事情』(信山社)などが、とても参考になります。  

 また、Mediationに関する米国文献は星の数ほどありますが、主なものは、教科書としてMoor, The Mediation Peocess, Bush Folger, The Promise of Mediation, Levine Getting to Resolutionなどがあります。また米国におけるMediation技法教育の教材として、Zeigler, The Mediation Kit, Jennifer E. Beer, The Mediator's Handbook, Beverly Potter, How to Mediate a Disputeなどがあります。(手元にはあるのですが、これから勉強しなければ!)

 米国におけるADRについては、WebサイトのADR Resourcesを訪問してください。


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