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テクノ企業法務日誌42                      弁護士大澤恒夫

ノーアクションレター、ガイドライン、準則…

◆新規分野への進出と許認可

 当社はお客様のシステムに合わせたソフトウェア開発等を事業の中心としてきましたが、最近お客様の声としてファシリティ・マネージメントやデータセンターなどの需要をしばしば聞くようになり、ソフトものだけでなくハードものに関する研究開発も進め事業化をしてゆきたいと考えています。そうなりますと、新しい事業をしてゆく上で色々な許認可など法規制があるのではないかと想像しているのですが、具体的にどのような規制があって、どのような点に注意しなくてはいけないのか、今の段階では全く分からず不安です。すでに社内でデータセンターのセキュリティ用にレーザーを応用したハンディタイプの電子装置のアイディアなども出ております。まだ海のものとも山のものともつかない漠然とした段階なのですが、法律的な側面をどのように考えたら良いのか、先日知人から紹介されましたL弁護士に話を聞いてみることにしました。

◆事前裁量規制から明確ルール・事後チェックへ

「旧来は何をするにも事前に役所の許可を受けなければできず、許可をしてもらえる条件もはっきりせず役所の裁量で決められる、そのために新規参入もむずかしいといった状況がありましたが、最近では原則として事業活動は自由で、ただ守られるべきルールは予め明確に決められ周知されている、それを破ったときは法的問題になるという世の中にしようという基本的な考え方で規制緩和が行われるようになってきています。」

「そうしますと当社が今回開発しようとしている製品なども特に役所の許認可などはないと考えてよいでしょうか。」

「いや、単純にそうは言えません。社会に流通する製品は特に安全などの見地から種々の法規制がなされていますので、やはり事前に十分検討しておく必要があります。」

◆電気用品安全法、消費生活用製品安全法など

 「どのようなものがあるんですか」

 「例えば電気用品安全法は『電気用品の製造、販売等を規制するとともに、電気用品の安全性の確保につき民間事業者の自主的な活動を促進することにより、電気用品による危険及び障害の発生を防止することを目的とする』法律で、電線から電子応用機械器具などまで様々な電気用品について、事業の届け出、製品検査、販売上の制限等々について規定しています。」

 「はあ。」

「それから消費生活用製品安全法という法律があって『消費生活用製品による一般消費者の生命又は身体に対する危害の発生の防止を図るため、特定製品の製造及び販売を規制するとともに、消費生活用製品の安全性の確保につき民間事業者の自主的な活動を促進し、もって一般消費者の利益を保護することを目的とする』というものです。もっとも、現在この法律の対象になっている主なものは、圧力鍋、乗車用ヘルメット、乳幼児用ベッド、登山用ロープ、液化石油ガスコンロといった関係のもので、変わったものでは携帯用レーザー応用装置というものが対象になっています。」

◆ノーアクションレター制度

 「あ、その『携帯用レーザー応用装置』っていうのは何だかウチでいま開発中の装置とひっかかりがありそうな感じがしますね。ウチの開発装置が規制対象品にあたるかどうか確かめる方法はあるんですか。」

 「ありますよ。平成13年3月に閣議決定で『法令適用事前確認手続』を導入する方針が打ち出され(http://www.soumu.go.jp/gyoukan/kanri/houteki.htm)、それに基づいて経済産業省、総務省、金融庁、公正取引委員会、警察庁で運用が始まっていますが、これをノーアクションレター制度といったりします。」

 「ノーアクション…?」

 「法令に抵触すると制裁、つまりアクションを受ける訳ですが、予め抵触しないという確認文書、つまりレターを行政当局から受けておけば安心だということで、そういう名称で呼ばれています。もともとアメリカの制度です。」

◆どこまで便利?

 「いや〜、便利そうな制度ですねえ」

 「個別の事案について、文書で、原則30日以内に回答してもらえるので、旧来から比べると非常に便利になったといえます。」

 「じゃあ、ウチの新製品事業が法律上の問題を全部クリアーできるかどうか問い合わせて回答してもらえば、完璧ですね。」

 「ちょっと、待ってください。ノーアクションレター制度では具体的な法律と個別の条文を特定して、その条文に該当するかどうかを問い合わせなくてはなりません。ある新製品について日本の何らかの法令に抵触しないかという形での問い合わせは受け付けてもらえません。経済産業省のホームページ(http://www.meti.go.jp/policy/no_action_letter/no-action-jirei.html)に実際の問い合わせと回答が出ていますので、見てください。」

◆回答の公表

「問い合わせをすると公表されちゃうんですか」

 「そうです。公表の蓄積で類似事案への指針になることが期待されています。ただ、せっかく新しいアイディアで新規事業を考えているのに、初めから公表されたら先行者利益がなくなるというような事態に配慮して、照会者の希望により公表を遅らせることもあります。もちろん特許出願などは照会より前に行っておくべきです。」

◆回答の効果

 「先ほどの経済産業省のホームページに掲載されている回答の実例を見てみますと、『本回答は…捜査機関の判断や罰則の適用を含めた司法判断を拘束するものではない』と書いてありますが…」

 「そうですね。ノーアクションレターは行政当局の正式な見解が書かれますが、それが法律を間違って解釈することもあり得る訳で、事後に裁判でノーアクションレターの内容は誤りだと判断されることも理論上ありうるということです。もっともそういう事態は稀でしょうし、万一そういうことになれば間違ったノーアクションレターを出した行政当局に対して国家賠償責任を求めることも考えられます。」

 「なんだか心細いような…」

◆公正取引委員会の場合

 「公正取引委員会のノーアクションレター制度はこの点で一歩進んでいます。」

 「といいますと?」

「公取委の制度では、事業者の行為が独占禁止法に違反しないか事前に相談し確認を文書で得ることができます(http://www.jftc.go.jp/jizen/jizen2.htm)が、公取委が『法律の規定に抵触するものでない旨の回答をした場合においては,当該相談の対象とされた行為について,法律の規定に抵触することを理由として法的措置を採ることはない』と明示されています。さらに『法律の規定に抵触するものでない旨の回答をした後において,相談の対象となった行為に係る市場における申出者等の地位や当該市場の状況が著しく変化する等,当該回答に際して判断の基礎となった事実に変更が生じた場合,その他当該回答を維持することが適当でないと認められる場合には,理由を付記した書面をもって,その全部又は一部を撤回することがある。この場合には,原則として,回答の全部又は一部を撤回し,必要な措置を採るための合理的な期間を経た後でなければ,当該相談の対象とされた行為について,法的措置を採らないものとする。』と規定されています。」

 「公正取引委員会の場合はだいぶ安心な感じですね。」

◆独占禁止法ガイドライン

 「公取委の話になりましたのでついでに申し上げますと、公取委の所管しています独占禁止法は非常に難解な法律でその運用の基準も必ずしも明確ではないため、公取委はいろいろなガイドラインを公表して、明確化を図ってきています。」

 「例えばどのようなものですか?」

 「公取委のホームページ(http://www.jftc.go.jp/dokusen/3/index.htm)で公表されていますので、是非ご覧頂きたいのですが、例えば『流通取引慣行に関する独占禁止法上の指針』、『リサイクル等にかかる共同の取り組みに関する独占禁止法上の指針』、『フランチャイズシステムに関する独占禁止法上の考え方について』、『特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針』、『不当廉売に関する独占禁止法上の考え方』、その他多数のものがあります。」

◆経済産業省の「電子商取引等に関する準則」

 「法令解釈を事前にはっきりしていこうという試みの新しいものとして、平成14年3月に経済産業省の『電子商取引等に関する準則』があります(http://www.meti.go.jp/feedback/index.html)。これは『電子商取引等に関する様々な法的問題点について、…取引当事者の予見可能性を高め、取引の円滑化に資することを目的とする』ものであり、『この準則がひとつの法解釈の叩き台となることにより、新しいルール形成の一助になることを願っている』とされ、『事業者や消費者から、具体的な事例について、広く考え方を募り』『柔軟に改正される』ものとして提案されています。」

 「当社も電子商取引関連のソフト開発もしており、興味がありますが、具体的にはどのようなことが書かれているのですか。」

 「オンライン取引の関係で、契約成立時期、なりすましの問題、サイバーモール運営者の責任、消費者保護など、また、情報財取引の関係でライセンス契約の成立、重要事項不提供の効果、不当条項、プログラムの担保責任、知財譲受人への対抗問題、PtoPファイル交換ソフトの問題などについて、現在の法令の解釈適用を示しています。もっとも、底で示されている結論の良し悪しは別で、おかしい問題があれば現行法に手直しを加えるべきだという議論にも繋がるわけでして、その意味での『叩き台』でもあるわけです。」

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 世の中、規制緩和で自由に事業活動をする余地が広がってきたことは大変良いことで、私どもも積極的なビジネス展開を図ってゆきたいと思いますが、周辺を取り巻く法律問題はまだまだはっきりしないことが多くて事業者としては頭を悩ますところです。ノーアクションレター制度やガイドライン・準則等を活用して、できるだけ円滑に事業を行ってゆきたいと思います。

                                                             (おわり)

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