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紛争解決の在り方と弁護士の役割    
弁護士大澤恒夫

1 「紛争解決」方式の基本的構造の概観

(1)裁判・仲裁型の基本的構造

    ⇒法的権利を裏付けるための過去の(法的)事実の主張・立証

     ▲相手に対する非難 ▲プロセスで生じる事実の歪み

    ⇒中立的第三者による事実認定+法の適用

     ▲莫大な費用、長大な時間と過大な労力 ▲認定の予測不可能性

    ⇒法的判断 (⇒強制)  ▲All or Nothing ▲納得できない

<従来からの弁護士のイメージ>

 当事者の代弁、当事者の保護者(パターナリズム?)、

 権利実現のための闘争

(2)話合いによる解決(風呂敷を大きく広げた場合)

    》あらゆる揉め事、困りごとについて ○幅広い問題の吸い上げ

    》過去のことも、将来のことも      

    ○将来の関係形成 ○相手の非難でなく反省材料としての過去の事実

    》当事者自身が相手と話合い

    ○コミュニケーションによる相互理解 ○自身による立ち直り>

    》諸々のファクターを考慮して <○実情に応じた妥当性>

    》合意できる解決策を紡ぎ出す。(⇒任意履行)

 

<○納得の行く解決 ○柔軟な解決>

 

2 同席調停理念における紛争解決

同席調停の理念においては、以下のように「紛争」や「解決」は考えられていると思う。

 「紛争」:当事者の抱えている生の揉め事。Cf.「法的請求権の有無」より広い。

 「解決」:@当事者の主体性を尊重したA公正な同席による話合の過程を経て、

      B当事者自身が納得する収束に至ること、できうれば相手方とのり良い関係の回復。

 ◎話し合いの過程で「事実認定をしない」「法的判断を示さない」レビンさんのMediationでは、将来に向けての非法的な関係形成という解決が目指されているといえるのではないか?

 

(2)間口を広くすることについて

  このように間口を広げて構えると、非法的・人生相談的な事項までもが対象事項になってしまいそう。その解決のために相談者に援助をしようとすると、それはカウンセラーの仕事そのものになるのではないか。それは適切か。当事者が法的解決を望んでいるのに、弁護士が非法的解決をアドバイスすることにもなりかねない危険もあるし、法的アクションを諦めさせてしまうこともありうる。むしろ、対象事項を法的に構成し法的手続に乗せることができるものに限定すべきか。実際の実務では恐らく、入り口での間口は広く取りつつ、弁護士自身が現場感覚でバランスをとりながら選別や対応をしていると思われる。

 

(3)「当事者の尊重」について

  弁護士が(裁判官なども同じ)、「紛争解決」を「事件処理」的な発想で考え、当事者を主体でなく客体として考えると、真の紛争解決は望めない。←「国家が紛争解決制度を営むのは適度に効率良く争いを解決するシステムを持たないと秩序が維持できないから」とする考え方(民事訴訟目的論における司法秩序維持説的なもの=これは司法制度運営における一つの要素)←制度運営的発想の中でも「当事者の主体性を尊重した当事者の納得の行く解決」こそ「真の紛争解決」だと措定することは可能なはず。

(4)弁護士の基本的役割としての紛争解決

  弁護士は法を媒介するものと一般には考えられている。そうすると、弁護士の関与する紛争解決は、法的なものを不可欠な要素とする、という考え方になりそうである。しかし、私としては弁護士の基本的役割である紛争解決における「紛争」とは当事者の抱えている生の揉め事(「法的請求権の有無」より広い。)であり、「解決」とは当事者の主体性を尊重した公正な過程を経て、当事者自身が納得する収束に至ること、できうれば相手方とのより良い関係の回復をはかることであって、第一次的には当事者同士による同席話合での解決を援助し(ここにおいて事実認定と法的判断は行わないかどうかは、なお検討を要する。後述のように弁護士業務の導入部である法律相談では仮定的法的判断を示すのが普通)、第二次的には事実認定と法的判断による法的救済措置を通じて法的解決を図ること、が弁護士の基本的役割である、と考えておきたい。

2 具体的Phaseにおける弁護士の役割

Phase1.=法律相談

  @ 相談者の話に基づいて(仮定的事実認定)法律解釈を適用した一般論(仮定的法的判断)にて助言するものであることを、相談者に理解してもらう。

  A 紛争の解決は、@の仮定的助言そのものを通用させようと考えるのではなく、現実の揉め事における当事者間の関係のもつれを当事者自身で解きほぐすことであり、当事者自身が主体になって話合いをして解決することをまず考えるべきことを助言する。

  B 解決に至る手続選択のバラエティ(当事者間の話合い、調停、訴訟など)とその得失を説明する。現実的な限界にも言及する。

Phase2.=紛争解決受任時

  @  受任するスタンスとその説明

   @)純粋代理的受任〜「あなたのためにトコトン闘いましょう!」

     これは前記の弁護士役割理念からは外れるもの。

    A)説得代理的受任〜「一応あなたの主張を基にして進みますが、相手方の主張立証も見てあなたを説得     する場合もあります。」…私自身のもっとも一般的な受任対応。しかし、これが前記の弁護士役割理念と整     合的か否か、問題がある。

    B)中立調整的受任〜「あなたと相手方の双方同席で話し合いをして解決を探ってください。その中であな     た自身で解決を掴んでください。私は中立の立場で話合の行司役をします(=同席調停のガイダンスを行     う)。不調の場合は、事後の受任はできません。」……これは前記の弁護士役割理念に近いように思われ     るが、弁護士が私的調停機関を営む、というのに等しい。ただ、実際は依頼者は自分が相談した弁護士     は「自分の味方をしてくれる弁護士」と思いこんでいることが多いので、この形態で業務を行う場合は相当     注意しないと誤解を生む危険がある(丁寧な書面での説明と了解が必要であろう。)。

    C)中立調整後代理受任(?)〜「あなたと相手方の双方同席で話し合いをして解決を探りましょう。その中     であなた自身で解決を掴んでください。私は中立の立場でアドバイスをします。それでも解決しない場合に     は、次のステップとして法的なアクションを考え受任します。」…この形態では《はじめ中立で、後で味方》、     というのは倫理上問題がないか、検討を要する。

  A弁護士費用、解決期間、解決の質のイメージ

   @)類型=高い、相当長い、不満の押さえ込みによる処理

   A)類型=中間、長い、説得と納得の狭間

   B)類型=安い、短い、当事者自身の納得

   C)類型=上記A)B)の複合

  B忠実義務と客観義務の狭間での苦悩

  C事案の進展に伴うスタンスの変動

Phase3.=手続選択

   @)純粋代理的受任〜攻撃的内容証明郵便→訴訟へ。

   A)説得代理的受任〜説得的内容証明郵便→相手方との折衝→if不調→調停or訴訟へ。

   B)中立調整的受任〜同席話合への誘い(電話、面会、手紙)→相手方が応じる場合:同席話合、if応じない    場合:調停申立、if不調→訴訟へ。

   C)中立調整後代理受任〜上記A)B)の複合。

Phase4=同席話合への誘い

    〜態度・台詞・内容

    〜方法

    〜同席話合の場所

Phase5=調停申立

    〜調停申立書の起案

     −依頼者の一方的な話で断定し、相手を悪し様に糾弾、しない書き方

     −同席調停の要請を入れこむ。

    〜相手方への提示

     −裁判所から送付される場合

     −当事者からの直送

Phase6=調停の開始

 @ 弁護士は同席して良いか。同席すべきか。

   〜同席すべきとする考え

   〜場合によって同席すべきとする考え

   〜同席すべきでないとする考え

 A 調停委員と相手方への要望(同席調停のガイダンス)

Phase7=同席調停の遂行と弁護士の対応

 −当事者に代わって発言をするべきか

 −同席中の当事者へのアドバイス

     〜事件そのものについての発言

     〜手続き的な発言

 −同席中の相手方や調停委員に向かっての発言〜同席調停の技法、進め方についての申し入れ 

 −コーカス

Phase8=調停の成立

 〜合意内容の法的表現、非法的表現

  −執行力などの法的配慮

  −紳士条項、精神条項、謝罪条項など

  −継続協議条項

 〜一部合意と一部不合意

  −全部合意がBestとは限らない。

  −未解決事項を将来に残すことと関係修復

Phase9=調停の不成立

  〜決裂の原因の検討

  〜依頼者へのアドバイス

  〜次に採るべき法的手段

Phase10=調停後のケア

  〜調停条項の履行確保

  〜継続協議の援助

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