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LANCIA FORREST おまけ
2003/5/17 日本法社会学会ミニシンポ 「プロフェッショナルのための交渉教育普及戦略」
「実践的交渉教育普及のための戦略研究」について<『対話による交渉』の理念と教育というアプローチで>
大澤恒夫
(当日追加で配布した資料を統合して、少し加筆修正しました。)
1「なぜ今、交渉教育が必要なのか」
−交渉と対話
−自律的社会を支えるインフラとしての対話=交渉〜重要な位置付け。日本社会が透明度を増し、いよいよ成熟してくるこの時代にあって、対話のMovementは全国的かつ多層的な広がりを見せており、今まさに「交渉」を見つめなおし、将来を担う世代への交渉教育を真剣に検討すべき。
―「正義の総合システム」における法的交渉の位置付け
(小島・大澤「正義の総合システムにおける法的交渉」(小島・加藤編『民事実務読本W(和解法的交渉)』))
紛争の解決は最終的且つ中核的には訴訟=判決という法に準拠した裁断によって担われるが、その周辺には裁判上の和解のほか、当事者の自律的解決を支援する各種機関における仲裁、調停、Mediation、相談・苦情処理などが存在し、また当事者間の任意の話し合い(相対による紛争解決交渉)が行われており、対象となる紛争全体の数からすれば、これら裁判外の紛争解決解決活動の方が圧倒的な量を有している。また、契約締結交渉や予防法務活動もこの全体システムの幅広い裾野を構成している。これらは法システム全体のなかで、法=判決を中心とする同心円の外周輪のように取り巻き、相互に「波及と汲上げ」の作用を及ぼし合いながら、その全体が有機的・総合的に法の支配を実現するための「正義の総合システム」(Universal
System of Access to Justice)として稼動している。そして、法律実務家はこのシステムの種々の段階において、法の媒介者として稼動し、法の「波及と汲上げ」にかかわっている。
他方、個人の尊重(憲法)に立脚した自律的社会においては、自由な法的主体間の自律的な対話により、あらゆる社会的関係が樹立・維持されるべきである。「正義」⇒「法」の正当性の根源も、システム全体がこのような理念(=自由な法的主体間の自律的な「対話」により、あらゆる社会的関係が樹立・維持されるべき)の可及的な実現を目指して、「対話」による絶え間ないチェックを受けながら運営されることに求められる、と考える。
したがって、法システムの各ステージにおける法律実務家のプラクティスは「対話」を通じてなされるべきものであり、交渉も「対話による交渉」を第一義とすべきものと考える。このようにして、「対話による交渉」は法システムの広大な裾野にあって、法の支配と豊饒化を支えるものとなる。
「対話」=お互いを一個の人間として尊重し、相手の言い分に耳を傾け、それを受け止め咀嚼した上で、自分の思いを相手に投げ返す、キャッチボールのようなやり取りの繰り返しのプロセス。
「私とあなたは違うということ。/私はあなたと違う言葉を話しているということ。/私はあなたが分からないということ。/私が大事にしていることを、あなたも大事にしてくれているとは限らないこと。/そしてそれでも私たちは、理解し合える部分を少しずつ増やし、広げて、ひとつの社会のなかで生きてゆかなければならないということ。/そしてさらに、そのことは決して苦痛でなことではなく、差異のなかに喜びを見出す方法がきっとあるということ。」(平田オリザ『対話のレッスン』221ページ)
−私の仕事と「交渉」
●社内弁護士として(1981~86)
〜顧客との大型コンピュータ・システム導入に関する契約、エレクトロニクスメーカーとのOEM契約、通信事業者とのJV契約などの企画、取引締結交渉など
●独立後(1986~現在)
◆更生管財人等として
〜企業再建における債権者その他利害関係者との当面の関係修復、労働組合との団交、再建案の企画・策定と受諾交渉
◆企業の顧問弁護士等として
〜技術系企業におけるライセンシングその他各種ビジネスの企画、契約交渉に関する助言、裁判外紛争解決交渉
◆一般の受任弁護士として
〜一般民事・家事事件での裁判外・裁判上の紛争解決交渉、刑事事件の被害者への謝罪と交渉(事実上の同席調停の試み:ストーカー事件、土地再開発関連事件、離婚事件など)・・・なお、大規模な入会権に関する紛争の交渉による解決について:廣田尚久『紛争解決学』(入相集団側代理人の著書。この事件の詳細な記録が紹介されている)、大澤「入会権紛争」(小島・加藤編『民事実務読本W(和解法的交渉)』)
2 交渉教育の意義
−小学校・中学・高校・大学及び専門大学院における対話=交渉教育の意義
−社会一般における対話=交渉の予備訓練として
−プロフェッション養成と対話=交渉教育
〜特に法科大学院における法律家養成と対話=交渉教育の必要性/重要性
・・・人々の役に立つ、良質な法律家の輩出を目指して
・・・「役に立つ」ということとLegalismと公共性
・・・対話=交渉と法
3「交渉教育は交渉能力の育成に役に立つか」
−どのような交渉教育をするのか?
〜対話=交渉がなぜ大切なのか(理念)を心から理解させる教育
〜そのような対話=交渉に臨むための必須の基礎的知識の伝達
−対話=交渉が必要となる場の現実的風景と心構え
−基本的な技法/技術
〜ロール・プレイ
〜現実の交渉の陪席とOJT
−交渉能力と「交渉教育」以外の要素と交渉教育
−交渉教育は交渉インフラの育成に役立つ
4「交渉教育の普及のためには、何をすればよいか」
−対話=交渉に関心を寄せ・実務を行い・研究している人々の裾野は広い
−人的リソースのInternet ForumやNPO法人を作る
〜Mediator養成の動きなど
−法科大学院における交渉教育
5「効果的な教育方法とは、どのようなものか」
−Visual教育〜ビデオ
−Role Play
−実務家のノンフィクション講義
−取引締結交渉の教育においては、失敗した取引交渉が原因で訴訟になった事案の判決例の分析を通じ、教訓を学ぶ必要。
−学生の現実生活での交渉観察や交渉実践
−交渉陪席とOJT
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「対話」とその援助を学ぶ〜大学における模擬Mediationの試行
〜事前の必須熟読文献として、レビン小林久子『調停者ハンドブック』を指定。
〜模擬Mediationの実施(末尾資料参照)
(模擬Mediation資料)
<当事者A用資料>
以下の事実のもとでAがBを相手に出資金の返還を求めてMediationを申立。
(Aさん・Bさん共通の事実)
AとBは仲の良い幼馴染であったが、3年前から郷里の地方都市で共同でパンの製造販売事業を始めた。
Aは以前、東京のパン屋で修行をしていた。
Bは以前、中堅スーパーで営業の仕事をしていた。
Bは、Aのパン製造の腕を生かし、自分の企画力・営業力で販売をすれば素晴らしいパン屋になれると考えて、Aに提案した。Aもそろそろ独立をしたいと考えていたので、Bの提案に従って郷里に帰ることにした。ABは自己資金300万円ずつ(合計600万円)を出し合って有限会社を設立し、小さいながら工場兼事務所を賃借して事業を始めた。設備などはリースし、ABが保証人になっている。パン屋は軌道に乗り、繁盛してきた。
ABの給料は同額としている。しかし、2年経つ頃からAはBに対して不満を持つようになった。
(A=工場担当の言い分)
Bは営業だ営業だと言っては納入先のスーパーや百貨店の人たちとゴルフに行ったり会食したりしている。自分は早朝から夕方までひたすら工場で汗にまみれている。自分は朝4時には工場の仕事を始めているが、Bは8時にならないと来ない。これで同じ給料というのはそもそも不公平だ。
経理はBが握っていて、内容を教えてくれない。もっとも、Aは数字に弱くて、帳簿を見せてもらっても良く理解ができない。
Bは不況で大変なので人件費削減が必要だといって、Aの給料を1割カットしたが、不況だ不況だと言うだけで、まともに理由を教えてくれない。Bも1割カットと言っていたが、実際はAが帳簿を理解できないことを良いことに、何かうまいことをやっているのではないか。店は繁盛してきたので、儲かっていないはずがない。
自分は騙されていた。いや、Bは口がうまいので最初から自分を騙す積もりだったのだ。こんなことなら、Aと一緒に事業をするのはもう嫌になってきた。
自分の腕があれば、自分だけでも十分やっていける。それで先月始め、Bに「もう辞めたいから、出資分を返して欲しい」と頼んだら、Bは「冗談じゃない、何言ってるんだ、出ていくなら出ていけ、だが出資金を返すわけには行かない」と怒鳴られた。Aとしては、こうなった以上、もうBとの関係を清算して、一刻も早く出て行きたい。
300万円の出資金も返してもらいたい。
ただ、Bは非常に弁が立つ人間で、Aが少し何かを言おうとしても関係ないことまで機関銃のようにまくし立てられて、言いたい事が言えなくなってしまう。Mediatorの力を借りて、口達者なBを説得してもらいたい。
<当事者B用資料>
以下の事実のもとでAがBを相手に出資金の返還を求めてMediationを申立。
(Aさん・Bさん共通の事実)・・・略
(B=営業担当の言い分)
Aは工場でパンを作っているだけで良いが、自分は外で売りさばかなくてはならない。営業がいかに大変な仕事かを、Aは全然分かっていない。
楽しくもないのに百貨店やスーパーのエライ人たちに付き合ってゴルフをしてオベンチャラも言わなくてはならない。
夜は夜で、楽しくもない食事などで接待しなくてはならない。
夜遅くても朝は8時から出社しなくてはならない。こんな辛い仕事はない。
パンだってBが出したアイディアでAが作っているだけ。
Aは気楽で良い。
店は確かに繁盛はしてきたが、この大不況でデフレスパイラルになってしまい、ますます薄利多売をしなくてはならない。人件費も切り詰めなくてはならないので、自分も1割カットし、Aにも同じ1割カットをお願いした。
賃金カットについても帳簿を見せて理由も説明したのに、ろくに見ないで「自分には良く分からない」とろくに口も聞かないで、怒って出て行ってしまった。
その挙句、Aが先月初めに「自分は独立することにしたから、出資した金を返して欲しい」と、いきなり怒鳴って事務室に入って来た。何を考えているのかさっぱり分からない。
パン職人は外にも居る。Aが出ていくのは自由だが、出資金を返すわけには行かない。
そんな金はないし、先日市役所の無料法律相談で聞いたら、出資を返す法律上の義務はないということだった。設備のリースだって残っている。
もうこうなったらAの顔も見たくない。
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<Mediator用資料>
事案の内容=ABはパンの製造販売の共同事業を始めが、両者間で仲たがいが生じ、AからBに出資金300万円を返還してもらいたいとして、Mediationを申立。
ABをMediationの場に向い入れるところから、以下のような諸点に留意してMediatorとして役割を演じること。このロールプレイ中に解決に至る必要はない。
* ABの着席場所、セッティングはどうあるべきか
* ABに対する自己紹介をどうすべきか
* ABに対するMediationの導入部をどのように切り出すか
* 当事者が相手の顔を見たくないと言ったらどうするか
* ABの話し合いをどのように開始させるか
* ABが相互に向き合って対話をするように話し合いをリードするには、どうすべきか(エンパワーメント、リフレイミング、パラフレイジングなどを考慮して)
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模擬Mediationを行った後の討議事項
今回の模擬Mediationとレビンさんの技法
Mediationの理念
A(=工場担当)から法律相談を受けた弁護士は、どのような助言ないし活動をすべきか。
B(=営業担当)から法律相談を受けた弁護士は、どのような助言ないし活動をすべきか。
Mediationのイントロダクション
同席方式と別席交互方式
Mediationにおける弁護士の役割
Mediationと「法」、「正義」
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